苦しかったお見合いたち
私が夫と知り合ったのはお見合いであった。
私は夫と出会うまでも何人かとお見合いをしていた。
お見合いした皆さんは幸い、いい人ばかりで、しかも立派なお仕事の方が多かった。
それなのに私は、夫と会うまでどの方とも関係を進められなかった。
いい人だけど好きになれない。
自分はこの先誰のことも好きになれないんじゃないか?ひとりぼっちの人生かと思うと不安で眠れない日もあった。
結婚しないで豊かな人生を歩む人は沢山いる。わかってるけど、私の場合はひとりの生活は孤独で寂しかった。
夫はそんな中で出会った見合い相手である。
彼は私よりもかなり年若く、失礼ながら、他のお見合い相手と比べて社会的な経験も浅かった。
でも彼を断る理由は特別無かった。あえていうなら、他のご立派な男性たちといるよりも、普段どおりの私でいることができた。そういう自然体でいさせてくれる雰囲気があった。
そんな彼との3回目のデートは水族館。
そこで着ていったワンピースが今回紹介したい作品だ。
水族館とワンピースの青
私は青色が好きだ。洋服も青色ばかりが自然と集まっていく。
母親の持っている布地をあさって青色の格子柄の布地を見つけたときも、真っ先にワンピースをリクエストした。
雑誌で見かけた、かなり特徴的なフリルを袖に施したワンピースのリクエスト。
このフリルが非常にめんどくさかった、と、後に母が言っていた。
私はミシンは一切やらない。そのフィールドを知らない者は、プロならなんでもできるはずと思い込んで、難しい注文をつけてしまうものだ。
でも母の苦労の甲斐あって出来上がりはとても可愛くて、そこらへんの服屋さんには置いてないような特別感があった。
そして、飽きないのだ。完成から数年たっているが、毎年可愛いと思って着ている。
水族館の青とワンピースの青。そんなイメージを持って、私は夫と出会って3回目のデートでその青いワンピースを着ていくことにした。
待ち合わせ場所にいくと、2週間ぶりに会った彼も水色のシャツを羽織っていた。
「最近何か楽しいことはあった?」と尋ねてくれる彼に、「今日を楽しみにしていました」と応えた。
好きなワンピースを着ていたからか。彼と青色がペアみたいに思ったからなのか。素直に楽しみだと思ったし、そう口にしていた。
波があるのが人生
その水族館デートの時期は、とある世間を非常に動揺させるようなニュースが出回っていた。私も落ち着かなかったし、彼も動揺を口にしていた。
「こういうとき、会えて良かった」
彼はそう言い、私も頷いた。
「人生はいい時ばかりじゃない。不安なときやネガティブになりそうなときに側に居てくれる人は貴重だと思います」と、年若い彼が言うのを、水族館の巨大な水槽を眺めながら聞いた。
なんだか彼の言葉が、ゆらゆら泳ぐマンタのうごきに乗って心地よく感じて、それが大きな水槽の空間一杯に広がっていくような。
青い洋服の私達もまた、大きな水槽の一部になったような。
そういう不思議な“広がり”を感じた。
彼はすごく背が高くもないしお金持ちでもない。でも彼といてそういう特別と感じる瞬間があった。人生には波がある。そこを共に泳ぎきれるか。それができる頃には本物の夫婦だろう。
ちなみにそこから数年後の今も、夫は水族館での私のワンピースを覚えていてくれているようだ。
特別な洋服は、記憶を呼び覚ます鍵を持っているのかもしれない。
今年の夏は青いワンピースでどんな思い出を作ろうか。
コメント